掲載元 => 朝日新聞デジタル:青森)ドローン空撮、道路拡張の一助に 十和田市
十和田 土地境界画定に威力
安全性や利便性のため、幅4メートル未満の「狭あい道路」の拡張が急がれているが、道路沿いの住民の協力がないと進められないため、全国の自治体がさまざまな知恵を絞っている。青森県十和田市が取り組んでいるのは、ドローンを使ったサービスだ。
4月中旬の朝、十和田市三本木地区。虫の羽音のような音をたてて、ドローンが約100メートル上空を飛んでいた。
地上には県公共嘱託登記土地家屋調査士協会の高見雅之代表理事(49)。手元のタブレット端末から、シャッター音が2秒に1回、聞こえる。
ドローンは1回のバッテリー交換を挟んで計約25分間飛行を続け、約2ヘクタールの範囲で458枚に及ぶ空撮写真を撮影。これらの写真を合成して、ゆがみのない画像を得る。
土地の境界線は法務局が管理する地図で示されるが、拡大すれば小さなドットの集合体。ドットのどの地点を境界線に選ぶかで最大数十センチものずれが生じるため、土地の所有者や近隣住民から実情を聞き取った上で境界を画定させなければならない。
ドローンで撮影した精密な写真をこの地図のデータと重ね合わせれば、土地の境界線がどの範囲に及んでいるかが一目で分かる。担当者が測量機器を持って地上を歩き回る場合と比べると、作業時間は5分の1程度、人員も約半分で済むという。高見さんは「ドローンを駆使することで、誰でも自分の土地の範囲が簡単に把握できるようになった」と話す。
事業 市民の協力頼み
十和田市は2014年10月から、幅4メートル未満の「狭あい道路」の拡張工事に取り組んでいる。狭い道を広げて4メートルを確保しようとすれば、私有地と道路が重なる地点が出てくるため、所有者から土地の一部を寄付してもらわなければならない。そのためにはまず正確に私有地の境界を把握する必要があり、同協会に測量を委託している。
個人が境界を画定しようとすれば数十万円程度の費用がかかるといい、これを市が負担する形になるので、所有者にとっては土地を寄付する見返りにもなる。「将来起きるかもしれない、境界を巡る近隣トラブルを永遠に回避することができる」と高見さん。
ただ、十和田市でこの事業の対象となっている狭あい道路の総延長は約41キロ。一方、事業開始から今年3月までに市民から寄せられた寄付の申請は74件で、距離にして1キロにも満たない。「市民一人ひとりの寄付に頼るしかないのでなかなか拡張工事が進まない」と市土木課の杉沢健一課長は認める。
助成拡大・非課税… 他自治体も工夫
狭あい道路の対応は、十和田市に限らず全国共通の課題だ。拡幅工事を進めるために、多くの自治体が市民が協力しやすい環境の整備に取り組んでいる。
たとえば静岡市。道路の拡張に伴って後退させることになる私有地にもともとあった塀の撤去費用だけでなく、新たに設置し直す費用も助成している。
東京都北区では、私有地の後退部分の所有権を自治体に移す「寄付」の形だけではなく、所有権を残したまま区が道路として無償で利用する方法も採用。所有者の抵抗感を和らげるのが狙いで、提供した面積分については固定資産税が非課税となる制度も紹介している。拡幅工事が終了した道路には、土地を提供した住民への謝意を示すプレートも設置している。
国土交通省は自治体の取り組みへの補助金制度を設け、側面支援している。担当者は「狭あい道路はいずれはなくさなければならない。自宅前の道路が広がることは土地の資産価値が上がることにつながる可能性があるので、地権者は自治体に協力してほしい」と呼びかけている。(中野浩至)
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〈狭あい道路〉 1950年に制定された建築基準法は、幅4メートル未満の道路(狭あい道路)では原則、中心線から2メートルの線を道路の境界線とみなすと定めている。消防車などが進入しやすくするのが狙いだが、法施行前に整備されたため本来は道路とみなされるはずの場所に家や塀がある箇所が現在も多く残り、安全上の問題が指摘されている。